英日翻訳は、主に日本の読者に原文の英語の意味を正しく分かりやすく伝えるために実施します。しかし時には、外国人の方が読むことを想定した日本語文書作成という業務もあります。
いわゆる、旅先で困らない日常会話くらいが分かる。日本語能力試験でN4くらいの勉強をしている人。日本人に置き換えて言うと英検4級くらいでしょうか。
そのような読者を対象とした文書では、
- 語彙が制限される
- かと言って、幼稚にならないように
という2点を両立させる必要があるのです。
外来語は、あえてカタカナで残しておくと分かりやすい
カタカナを意識的に使うことで理解度向上に役立った事例をお話したいと思います。
以前、日本語初心者の外国人出張者が日本語でスピーチをしたいというので、お手伝いしたことがあります。
あらかじめ、英語で原稿を書いたものを翻訳会社に日本語に訳してもらっていたが、その日本語が理解できない、と。
確かに、正しくはあるけれど、明らかに本人が理解できる語彙を超えています。
そこで、業務紹介の文では「市場開拓のご提案を・・・」などという訳文を差し替えて、
日本の「マーケット」にむけて、あたらしい「エンジニアリング・ソリューション」を「セールス」する「ビジネス」をしています
―だったら分かる?などと、
できるだけカタカナに置き換えてあげたところ、本人が日本語のセリフを理解した上で、しかも幼稚にならずにしゃべってもらうことができました。
ビジネス用語には外来語が多いものです。カタカナとして定着しているものは積極的に取り入れると、日本の読者と外国の読者に共通認識を持っていただきやすいです。
そのカタカナ、和製英語!?英語でも通じるのかチェックしてから使う
日本では当たり前のようにカタカナで言っているけれど、英語としては通じない言葉が、意外とあります。
普段から、和製英語かどうかに敏感になって、リサーチする習慣をつけておくと良いでしょう。
最近見かけた例では、こんな語句がありました。
tailored
辞書的な意味では「誂(あつら)えた」ですが、現代語としてなじみがないため、カタカナに置き換えたいところです。
ところが、読み通りの「テーラー」にすると、日本語の感覚では紳士服の仕立てに限定されてしまいますね。ビジネス文書にtailorが出てきた場合、テーラーでは違和感があります。
日本語では、誂えることを「オーダーメイド」とも言います。
しかし、ここで注意!
オーダーメイドは、実は和製英語です。もし、外国の読者が読んだ場合は、意味不明になってしまいます。
tailorの類語にもなっているcustomizeはどうでしょうか?「カスタマイズ」ならカタカナとしても、英語としても成り立ちますね。英日翻訳の際には「カスタマイズされた」と訳しました。
新語は必ず、カタカナで残しておく!
現代社会では、新しいコンセプトが次々と生まれています。
そんな新語は、定訳が出来上がっていないうちはカタカナにしておくのが得策です。
最近の英日翻訳に出てきた用語に
living lab(リビング・ラボ)
というものがありました。
これを、「生きた実験室」などと無理矢理日本語にしてしまうと誤訳になります。
リビング・ラボとは、研究やサービス開発の初期段階から地域住民に関わってもらい、そのプロセスをまちづくりや町おこしにも生かしてもらおうという、産官学に住民も加わった新しい共創のかたちを指します。
とは言っても、一般読者には普及していない言葉ですよね。
そこで英日翻訳の際には、「地域に根差した『リビング・ラボ』の手法」と補足説明も入れて訳しました。
まとめ
外来語は、あえてカタカナで残しておくと分かりやすい
和製英語かもしれないので、英語でも通じるのかチェックしてから使う
新語は必ず、カタカナで残しておく
この流れが私のおすすめです!
これで、日本の読者はもちろん、語彙が制限された外国人読者が読んでも分かりやすい文章になるはずです。
訳文評価業務の際に訳例を拝見すると、
カタカナのままで通じるものを、自己流に日本語に直してしまった
「訳しすぎ」
が多い印象があります。
皆さんも、訳しすぎになっていないでしょうか?
カタカナをうまく取り入れるワザ、使ってみてくださいね。