この画像を見てください。catch upとketchup(ケチャップ)を掛けた、「キャッチしたらケチャップまみれ」という典型的なpun(ダジャレ)です。そんな英語のpunは理解が難しくて笑えるようにならない。言葉の面白さをうまく伝えるのも大変――、そんなふうに苦手意識を持っていませんか?カタログや広告を翻訳するには避けて通れないpunの世界を、今回は体験してみましょう。
英語の広告に使われたpun、どのように訳しますか?
まずは、一般的な広告のキャッチフレーズを3つ、例に挙げてみます。
翻訳の手順を意識しながら読んでみてください。
(1)
When it pours, it reigns
この広告のベースになっている元ネタは、
When it pours, it rainsということわざです。知っていればたどり着きやすいですが、「When it pours」でネット検索をしても見つけられます。
When it pours, it rainsの直訳は「雨が降ればいつも土砂降り」で、日本のことわざに意訳すると「二度あることは三度ある」が当てはまります。
ことわざをパロディーにしていることが面白いわけなので、訳文は、ことわざに忠実に、直訳または意訳の構文を維持する方針とします。
pourは「投入する」、reignは「占拠する」といった意味があります。
ビジネスの世界では、「商品を投入したら市場を席捲してしまう」ということです。
この意味を、元のことわざに当てはめて、例えば
直訳を採用:「売り出せばいつも繁盛」
意訳を採用:「二度当たったらまた売れる」のような訳文に仕上げていきます。
(2)
The comfortable all-round running shoes
2つの似た単語を掛けているパターンのpunです。
このシューズは全体に丸みを帯びたフォルムが特徴で、なおかつどんな道でもオールラウンドに走れるという意味でall-roundが使われているのです。
2つの単語の意味は異なるのに、roundが共通して使われていることが面白いわけです。
そこで、round「ラウンド、まるい」を意図的に使って、面白みを出すことにします。
例えば、
「オールラウンドに使える、快適ラウンドフォルムのランニングシューズ」
または、親しみやすい口調で
「まるごと走れる、まんまるフォルムの快適ランニングシューズ」
のような訳文に仕上げていきます。
(3)
Dead batteries, now free of charge
この広告のdead batteriesには、元になる熟語があります。
元ネタはdead poolで、存在しているけれどほぼ活動がない状態のことを指します。マーベル・コミックのキャラクター名としても有名なので、知っている人も多いかもしれません。
ビジネスで訳す場合は、活動していない会社、つまり休眠会社などを指すことが多いです。「休眠会社をタダ同然で引き取ってもらう」ような、持ち主には得しかないが、買い手にとってはどうなのか謎であるという点が面白いわけです。
この面白さを説明口調になりすぎないよう表現して、例えば
「ほったらかしのバッテリー、今なら無料でお得に処分」のような訳文に仕上げていきます。
日本語のダジャレの面白さを残して訳す
では次に、日本語のダジャレ広告を英語に訳してみましょう。
例えば、事務用品の広告にダジャレシリーズがありますね。それを題材にしてみます。
【課題文】
コピー用紙ないや。 ようし、補給しよう。サイズは…A4でえーよん!
(1)
コピー用紙ないや。 ようし、補給しよう。
音が同じ「ようし」という掛け声と、「用紙」を掛けてダジャレになった文です。
呼びかけと、用紙という言葉が同音異義語になっていればいいわけです。
「ようし」を掛けるという本質が保たれていれば、その他の部分は英語のpunになるように直してしまって構いません。
そこで例えば、
Fasten your sheet belts to feed a sheet of paper.
(feedはコピー機に紙を補給する意味)
のように、よくある呼びかけのseat beltをsheetに変えて、韻を踏む効果とバカらしい演出を狙った文にするといった案が考えられます。
(2)
サイズは…A4でえーよん!
「A4」の後に、韻をふませるために、「えーよん」というあまり意味のない言葉を繰り返した文です。
A4は英語ではA fourとなり、A forに近い音ですから、A forを使った英語のpunを探してみます。
A for effortという、「よくやった」という意味のライム(押韻)が存在します。音の面からも意味の面からも近しいと言えます。
そこで例えば、
Get an A for effort for getting A4!
のように、A fourに近い音を3回繰り返すpunを作るといった案が考えられます。
ここでは一例を挙げましたが、皆様も自分なりの案を考えてみてください。
まとめ
ダジャレ(pun)を含む広告などを訳す場合、原文を機械的に訳しても意味が通りません。
- まずはpunのパターンを認識:既存のイディオムやことわざを改変したものや、似た単語を掛け合わせたり、韻を踏んだりしたもの
- ベースになっている単語やフレーズの本来の意味・訳語をリサーチする
- どうして、その言葉を使うと面白いのかを筋道立てて説明する
- 面白さの本質(パロディーにする、韻をふむなど)は残し、枝葉は思い切って意訳してOK
この流れが私のおすすめです!
なぜ面白いのかを筋道立てて、訳す前に説明してみる工程は重要です。
外国人には日本語のダジャレを理解するのが難しいそうです。ネイティブチェックに出す際などに、この面白さを表現したいという説明を添えておくと、共通認識を持って作業してもらえる効果があります。
英日翻訳の場合は、訳文を面白くする表現力も必要です。翻訳と並行して、コピーライティング技術も学んでおくと役に立つでしょう。