【翻訳者のコピーライティング】Go to トラベルの気の利いた直し方5選

2020年7月22日から始まったGo Toトラベルキャンペーン。見切り発車的なキャンペーン内容とともに、go to travelという英語が間違っているという指摘も持ち上がっています。

日本国内居住者であれば、在住外国人でも対象となるキャンペーンなので、外国人利用者も多数見込まれます。そのため、英語が母国語の人が聞いても違和感がないことにも配慮していただきたいものです。

今回はこのgo to travelについて、翻訳者ならどのような訳語の選び方をするか、いくつか事例を紹介したいと思います。

 

go to travelは間違い! 文法的に正しく直してみると…

 

go to travelという熟語は文法的に間違いであることは、受験英語を経験した人なら直感的に覚えている人は多いでしょう。
ではなぜダメだったのかを、正しく説明できますか?
goは自動詞なので、目的語を取ることができません。そのため、to travelという名詞的用法の不定詞をgoの後につけることはできない、という理由でしたね。

では、どう直せば良いのかというと、go on+名詞にする、と習ったはずです。

go on a travelならいいのかと言うと、travelは名詞形ではめったに使わないので、普通はgo on a tripにするべきだ。ここまで覚えている人もきっといらっしゃるでしょう。

 

だから、go to travelという原稿が回ってきて、プルーフ(推敲)でgo on a tripに直すか?というと、実はそこで翻訳者の仕事は終わりません。

音読すると、「ゴー・オンナ・トリップ」。そう、ニュースで音声だけ聞いた市民からは、「男は割引にならないのか?」というクレームが殺到してしまいます。

また、日本ではトリップはトラベルよりも、旅行という意味が浸透していません。旅行ではない意味を想像してしまう人も多いという恐れもあります。

 

翻訳者は広告物やキャンペーン文書の翻訳を担当することも多いのですが、正しく、そして、音声だけで聞いても伝わるように工夫していくことになります。

翻訳者目線でgo to travelの代案を考えてみた

 

今回、go to travelで目指した語感はできるだけ損なわず、かつ英語としても文法的に正しい表現を5つ挙げてみました。

 

①Go Traveling

go ~ing形は、現在分詞という説もあれば、go on ~ing(動名詞)から前置詞のonが慣用的に抜け落ちた表現であると説明されることもあります。

いずれにしても、travelを動詞として使うのは文法的には誤りではありませんので、これを候補に挙げます。

go ~ing形を用いておけば、買い物を促すキャンペーンはgo shoppingとすることができるので、go to 商店街という在住外国人の方々に通じにくいキャンペーン名を英語名称に統一することも可能になるでしょう。
日本人は動詞を~ing形にするのを好む傾向にあるので、誰が聞いても語感の良い表現と言えそうです。

 

②Go Sightseeing

文法的には①と同じ用法ですが、今回のキャンペーンは観光を促進するもののようですので、主旨としてはsightseeingのほうが意図を忠実に表現できそうです。

サイトシーイングは、海外旅行に行く人は必ず入国審査で言わなければならないので、旅行英会話でも一番はじめに学ぶ表現であるはずです。

一般の人に知られている言葉である点からも、キャンペーンの親和性があるはずです。

 

③Go To Ryokan

旅館は日本独特の宿泊施設なので、日本語のまま、ローマ字のままで外国人にも伝わります。

日本が誇る世界的な観光資源というメッセージを込めることができる表現です。

もちろん、日本在住の外国人の方々にとっても、観光に行きたい気持ちを高めてくれることでしょう。

 

④Go To Resort

resortは「リゾート」という名詞です。go to 英語という構造にこだわりたいのであれば、resortを使えば文法的に問題ない表現となります。

resortならローマ字読みをしても発音や意味が推測しやすく、またリゾートという非日常性やプレミアム感を喚起することができるお勧め表現です。

 

⑤Go And Visit ~

go and visit~で「遊びに行く」という意味のイディオムです。

このキャンペーンには、つらいことはいったん忘れて、たまには遊びに行っていいんですよ、というメッセージも込められているものと思います。

それを表現できることと、もとのgo to travelと音節が似ている点にもメリットがあります。

しかし注意点としては、visitは他動詞なので、目的語が必要です。

Go and visit Hokkaidoや、Go and visit Tohokuというように、文法的には地名を入れる必要があります。地名を入れることでかえって各地のアピールになると考えれば良いアイデアかもしれません。

 

まとめ

広告物の日英翻訳で気を付けるべきことは、第一に、英語として文法的に正しいこと。もはやグローバル社会であることを考慮に入れ、日本国内向けの文書であっても、英語が母国語の人が聞いても違和感がない表現を選びましょう。

一方で、カタカナで見ても、あるいはニュースやコマーシャルで音声だけを聞いたとしても日本の人が違和感を持たないかどうかも重要です。

キャンペーンの企画内容やコンセプトが分かる場合は、その意図が忠実に伝わるような訳語を選択しましょう。

 

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